4月30日夜、東京都練馬区のとんかつ店で火災があり、店主の男性(54)が全身やけどで死亡した。男性は東京オリンピックの聖火ランナーに選ばれていた。新型コロナウイルスの感染拡大で大会は延期されたうえ、店も営業縮小に追い込まれ、先行きを悲観するような言葉を周囲に漏らしていた。遺体にはとんかつ油を浴びたような形跡があり、警視庁光が丘署は出火の経緯を慎重に調べている。 30日午後10時ごろ、同区北町2の鉄筋ビル3階建ての1階に入るとんかつ店から出火した。煙に気づいた近所の住民の119番で消防隊員らが駆けつけると、床と壁の一部が焼けており、客席付近で男性が倒れていた。搬送先の病院で、約1時間半後に死亡が確認された。同署は現場の状況から男性が油をかぶった可能性があるとみているが、遺書は見つかっていないという。 近隣住民の話や地元ケーブルテレビのインタビュー番組によると、とんかつ店は創業50年の老舗で、男性は3代目の店主だった。埼玉県戸田市で生まれ、中学生の時に東京都板橋区に引っ越した。地元の高校を出て、法政大の夜間学部で経済学を学び、昼間はアルバイトで学費をためた。卒業後は慶応大にも入学。日本大大学院で修士課程を修了した後、妻の実家が営んでいた店を継ぎ、夫婦二人三脚で切り盛りしてきた。商店街の行事で中心的な役割を担うなど、地域への思いも強かったという。 男性の趣味はマラソンだった。2005年に都内の市民マラソンに初めて参加し、ゴール地点で3人の娘に迎えてもらった。全国各地の大会にも参加するようになり、娘たちから手作りの表彰状をもらうのが楽しみだったという。 19年12月には五輪の聖火ランナーに選ばれた。男性はフェイスブック(FB)で「申し込みの文章を妻や子どもたちに何度も添削してもらった。夢のようだ」と喜びを語っていた。今年7月18日に練馬区内を駆け抜けるはずだった。 ところが、新型コロナの感染が世界中で広がった。五輪開催が危ぶまれるようになった3月に入ると、FBに「聖火が新国立競技場に届くことを願わずにはいられない」と投稿。延期が濃厚になると、周囲に落胆の色を見せるようになった。一方で「店で今日も明日もお客様を迎えられることに感謝しながら、料理を作り続けたい」と前向きな投稿もあった。 3月下旬に五輪延期が決定し、4月7日には政府の緊急事態宣言が発令された。都による飲食店の時短営業の要請を受け、男性も13日から臨時休業に踏み切った。「働くのが大好きで、定休日も設けず家族旅行に行くのも数年に1度で、30年弱働いてきた。自問自答しているが、感染予防に徹したい」とFBに書いた。 持ち帰りのみの営業で急場をしのごうとしたが、60代の知人には「コロナが収まらないと、もうどうやったってだめだ」と嘆き、29日には「店をやめたい」と漏らした。商店街関係者(78)は元気のない男性のことを心配し、火災当日の30日に練馬区役所に対応を相談していた。「皆から慕われていた。なんでこんな結果になってしまったのか」と悔やんだ。 男性は28日、FBへの最後の投稿で、店舗の再開に向けて必要な消毒液が手に入らないことに触れ、「また振り出しに戻った」と先が見通せない苦しさを吐露した。この頃には5月6日までとされていた緊急事態宣言の延長が取り沙汰されていた。文末には「あなたの命を、家族を、大切な人を、社会を守るため、感染拡大を食い止める。その言葉を改めて心に刻みました」とつづった。 家族は毎日新聞の取材に「頭の中の整理が追いついていません」と話した。【土江洋範、最上和喜、鈴木拓也】 毎日新聞 2020年5月2日 01時01分(最終更新 5月2日 01時30分) https://mainichi.jp/articles/20200502/k00/00m/040/003000c
引用元:http://2ch.sc/test/read.cgi/newsplus/1588351458